DeNAの考えるプログラミング教育で育む3つの力
株式会社ディー・エヌ・エー 取締役会長
南場智子

「プログラミング学習普及プロジェクト Compter Science for ALL」のアドバイザーのみなさんに、CANVAS理事長石戸奈々子がインタビュー。さまざまな分野のプロフェッショナルであるアドバイザーの方々に、それぞれの「プログラミング教育」についての考え方、視点について伺います。今回は、自社の社会貢献事業として、佐賀県武雄市や神奈川県横浜市などを中心にプログラミング教育を推進する株式会社ディー・エヌ・エー 取締役会長、南場智子氏にインタビュー。

目次

  • これからの日本人に必要な力とは?
  • なぜプログラミング教育だったのか?武雄市での実践
  • プログラミング教育は何歳から?
  • オリジナルのブロックプログラミング言語
  • 国語の時間にプログラミング
  • 民間企業・団体の関わり方
  • すべての人にとって必要なプログラミング的素養とは
       

これからの日本人に必要な力とは?

石戸

まず、なぜ南場さんがDeNAとして教育分野に取り組もうと思ったかお話を伺えますか?

南場

私、未だに新卒採用もやってるんですね。

石戸

すごいですね。(笑)

南場

すごい会社ですよね? そうすると、毎年何万人という学生と接点を持つことになるのね。短いけれど、私自身が海外で教育を受けた経験もあるし、海外で事業も進めているということもあるので、日本の教育にすごく大きな問題意識を持っています。私はすごく日本が好きだし、日本人そのものは大いに肯定してるのですが、残念ながら足りないものがある。

まずは、答えが一つと決まっていないときや、ゼロから何かをつくりあげることに弱いというところ。日本人は常識もあるし、計算も速い。つまり、「答えが一つ」であることに対してはとても上手に対応するし、レベルも高い。でも、突拍子もないものをゼロからつくりあげることは苦手だと思っています。

「突拍子もなく」というのはネガティブな言葉にも思えるかもしれないですが、本当にゼロから何か新しいものをクリエイトするにはそういう側面が必要になります。ゼロからクリエイトする力は、生まれたときは同じようにみんな持っているはず。だけど、日本の今の教育のままだと、その力がだんだん減ってしまっていくような気がしています。だから、先生の持っている一つの答えを言い当てるとか、親が期待してる一つの答えを言い当てるとか、そういう方向づけはできるだけ減らしていきたい。

そういう教育を受けて、できあがった若者はどんなときも正解を言い当てようとします。例えば、面接で「ほかに質問はありませんか?」と聞いたときでも、どういう質問をするのが「正解」なのかと考えるような癖ができてしまっている。残念ながら、この時代においてそういう感覚は邪魔になってしまいます。大量生産で高度成長していた時代には均質性というのが非常に尊ばれていました。それがわが国の力になっていたのですが、今はそういう時代じゃない。答えが一つではないところにおけるクリエイティビティということが重要になってくる。

そして、もう二つ、大切な力があると思う。一つは、「感情を共有する力」と私は呼んでいますが、パッションです。自分の情熱を共有する力というのは、今の教育ではあまりトレーニングされていない。

もう一つは、「文化の違う人たちとのコラボレーションをする力」。日本は多くの子どもたちが日本人だけがいる環境で育ちますよね。それって実は世界的に見れば珍しいことなのですが。その珍しさ自体にほとんど気づいていない。若者のグループワークを見ていても、国や宗教の違う人同士が組み合わされた中での日本人のコラボレーションする力は弱いなと思っています。

この3つの力は、国の競争力にも、産業の競争力にも直結する重要なものだと思っています。それは人々の幸せにも直結する。

そして最後には、ITを用いて何ができるのかを学ぶこと。これまでの「デジタルデバイド」は使えるか使えないか、という差だった。でも今は、デジタルデバイスやコンテンツを使う、あるいは消費するという部分においては、ほとんどのこどもたちが当たり前のようにできている。今直面している新たな「デジタルデバイド」は「使えるだけか、つくることができるか」だと思っていて、その「つくることができる」部分が教育できていない。この問題と、上記に挙げた、日本の教育に欠けているなと思うこの3つの力を何とかしなきゃいけないな、という問題意識からプログラミング教育に取り組むことを考えました。ただ、現時点では事業化は考えないで、社会貢献活動の一環として実施しています。

石戸

これまでの時代においてはただ一つの正解に対して迅速にその「答え」にたどり着くことが大事な力として求められていた側面がありますね。今ある仕事の多くがなくなるといわれている、この変化の激しい時代に必要な力は多様な人々とコラボレーションをしながら、情熱を持って創造する力だということですよね。

南場

そうそう。

なぜプログラミング教育だったのか?武雄市での実践について

石戸

南場さんがDeNAとしてプログラミング教育に取り組んでいるのは、単に「スキル」を教えるためだけではなく、先ほど仰っていた「3つの必要な力」が、プログラミング教育を通じて育まれると考えてらっしゃるからでしょうか?

南場

石戸さんも、日々現場に立っているからわかると思うのですが、プログラミング教育は答えがない世界の最たるものだと思っています。プログラミングは道具。その道具を使うと、それぞれの個性が発揮されたもの、あるいは情熱が込められたプロダクトが出来上がります。答えがないところからスタートして何かを創造し、インターネットを使ってそれをみんなにシェアすることができる。そういったことがとても簡単にできる環境がそろっています。もちろんプログラミングだけを教えればそうなるということではないので工夫が必要ですが、うまく活用することで、今欠けている3つの力を、育むことができると思っています。もちろん、それだけではなく、いわゆる「コンピュータって何?どういう仕組み?」ということをはじめとして、日常生活の中でブラックボックスになってしまっている領域への理解を深めることができると思います。

石戸

試行錯誤しながらものをつくる過程で学んでいくということですよね。プログラミングを通じて、ITを活用した創造力とともにこれから必要な3つの力も育むことができるわけですね。

南場

そうそう、そうだと思う。ただ、そういった思惑よりも大事なことがあって。それはプログラミング自体が「楽しい」と感じてもらえることです。実際に武雄市の小学校の義務教育の現場で、1年生の児童全員に全8回の授業をおこなったのですが、すべてのカリキュラムが終わった直後のアンケートで全員が「もっと続けたい」って、1人残らず答えてくれました。さらに授業の内容について「どこが面白かった?」と聞いたとき多かったのは、「何度でもやり直しができる」という点、つまりは「試行錯誤ができる」ということでした。

あと、もう一つは「発表」。8回目の授業で、同級生や親御さん、他の学校の先生の前で自分のつくったものをプレゼンテーションしてもらったのですが、その発表が楽しかったと答えた児童が一番多かった。プログラミングそのものや試行錯誤が楽しかったというのはある程度予想されたことではあったんですが、「発表」が1番だったのは嬉しかったですね。

石戸

よく日本人は、発表やプレゼンが下手と言われていますが、こどもたちとワークショップをやっていると、発表したがるこどもがすごく多いですよね。

南場

そうそう。こどもはみんな本来そうなのだよね。

石戸

お話しされていた武雄市は2014年から実践されていましたよね。どのような経緯で始まったのでしょうか?

南場

知人を経由して、前武雄市長を紹介してもらって始めました。市長さんにタブレットPCを活用した授業案としてプログラミング学習の話をしたら、市や教育委員会としても小学校低学年向けにタブレットPCを使った授業について検討されていたタイミングだったことと、武雄市のみなさんがそういった教育に対して感度のいい方が多くて、すぐに大枠が決まって話が進んでいきました。

石戸

プログラミングにかかわらず、教育の情報化に関して、首長さんのやる気のある地域から進むので地域間格差が拡大してきています。実践内容について改めて具体的に伺ってもよろしいでしょうか?

南場

武雄では、タブレットPCは1人1台ずつあるので、それを用いてプログラミングの授業を行いました。我が社で開発した小学校低学年用の教育アプリは、ブロックを組み立てることでプログラミングをすることができる、いわゆる「ビジュアルプログラミング」を採用しています。それでプログラミングの基礎を学んだあとは、内蔵のカメラを使ってこどもたちが自分で描いた絵などを取り込み、最終的にオリジナルのアニメーションやゲームをつくりました。それがすごく上手に作るんです。

武雄では、1人1作品をつくってもらったんですが、まず個々人で物語、絵コンテに近いものをつくってもらいます。例えば、「泥棒がおうちに入ったらイヌにかみつかれて泥棒が震える」とか・・そういう物語。

石戸

ユニークですね。

南場

あるいは、空中にUFOが飛んでいて、それに爆弾を当てて・・、とか。

石戸

男の子はバトル大好きですね〜。

南場

そうですね。(笑)さらに、「もし主人公がUFOにぶつかったら、そのUFOが爆発する」というストーリーに合わせて絵を描き、そのあとプログラムを組んでいくのですが、それをいかに迫力あるように見せるかとか、作品のクオリティを上げるために、こどもたちは試行錯誤していましたね。

そういった試行錯誤は、どういうプログラムにするかという点に限った話ではなくて、どうすれば理想に近い作品になるか、という演出にも及んでいました。例えば、ホームランを打ったら「カーン」って音が鳴るようにしたいというこどもがいて、筆箱を机に当てて、「カン」と鳴った音を取り込み、ホームランの瞬間に音が鳴るような作品をつくっていました。

石戸

その子自身がプログラムをつくったのですね。

南場

そうそう。そういうゲームやアニメを一人一人がつくったの。すっごく出来がいい。例えばこれは「お父さんメロメロ」っていうゲーム。


このゲームの主人公は、ケーキが食べたい。でも、お父さんがその前に立ちはだかっていてケーキを食べることができないので、ハートを送ってお父さんをメロメロにします。変数機能を使って、ハートを10個送るとお父さんがメロメロになるとか、そういうルールも自分でプログラムしています。

石戸

何年生の子がつくったものですか。

南場

それ2年生なんですよ。

石戸

お父さんへの愛を感じますね。

南場

そうそう。

こっちは1年生がつくったもの。


これは上のものがUFOで、UFOをタブレット上で触ると動きます。その下の爆弾が命中するとこうなり、命中しないとこうなります。まさにゲームなんですよね。

石戸

何時間ぐらいの授業でこのような作品が完成するのですか?

南場

45分授業を8回ですね。最初はタブレットの基本操作から教えるので、プログラミングにかけられる時間は正味3、4回の授業ですね(編注:2年生時には13回の授業を実施)。

こっちは1年生がつくったもの。

石戸

放課後の時間で行われたのですよね。

南場

武雄は放課後です。今は横浜の小学校でも取り組んでいて、そちらは国語の授業の時間内で行いました。1年生の国語の指導要領にはプログラミングを教えるということは含まれていないので、プログラミングを、授業を進めるツールのひとつとして位置づけて「お話を伝える」という単元の一環として10回の授業で行いました。通常の国語の授業では、それまで紙芝居を使って、物語の起承転結を意識しながら同級生に伝えるという形式で行っていますが、その紙芝居の部分をプログラミングを使って制作したアニメーションに置き換えています。

例えば、あるキャラクターが「キュウリを食べると緑色になる」、「ブドウを食べると紫になる」という物語の設定があって、それをアニメーションにしました。食べたものの色に変身することを繰り返して、よりその世界観を伝えていくことが狙い。一つ一つの班でテーマを決めて行いました。それぞれ違いがあって、すごく楽しかったですよ。

石戸

グループは、何人ぐらいで構成していたのでしょうか?

南場

グループは基本4人ですね。

プログラミング教育は何歳から?

石戸

みなさんの実践では1年生からスタートされましたよね?

南場

そう。

石戸

最近ではプログラミングを学ぶ場も低年齢化してきていますが、その当時ですと、3年生や4年生ぐらいからの実践が多かったのではないかと思うのですが、なぜ1年生から行ったのですか?

南場

1年生からでも全然早すぎることはないと思っています。アメリカのシリコンバレーなどでは、幼稚園からコンピュータラボに通っているこどももいます。プログラミングは早いうちからやった方がいいなと思っています。そもそも、基礎的なものはそんなにハイスキルのことではないので、ちょっとやってみたらすぐにできてしまう。武雄の小学校の場合も、虫捕りを楽しむような感覚でやっていたのだと思うのですよね。

石戸

イギリスも、小学校1年生からプログラミング教育が始まっています。イギリスの場合、1年生って5歳からなんですけど、プログラミングを学んでいます。1年生でも早すぎることはなかったということなんですね。

南場

絶対そう思う。

石戸

文部科学省のプログラミング教育に関する取りまとめでは、コーディングスキルとプログラミング的思考をしっかりと分けて記載して、方針としてプログラミング的思考を育むことを重視することが示されました。DeNAは多くのプログラマーがいらっしゃるIT企業ですが、その方針についてどう考えていますか?

南場

まずは「プログラミング的思考」でいいと思います。これはちょっと欲張った考え方ですが、全員がプログラミングの経験と思考力といった「素養」を持つと、一定の確率でマーク・ザッカーバーグが生まれると思うんですよね。

石戸

裾野が広がれば、頂点も上がるということですね。

南場

そう。今、ITをうまく活用することのできない企業は非常に難しい。今までは、エンジニア以外の人が企画をし、最後にエンジニアがつくる、という流れでしたけど、それは今ちょっと時代遅れになっていると思います。

今は、エンジニアが考えながら開発する、いわゆる従来の「企画書」は、もはやプロトタイプなのです。直接すぐに、サービスやプロダクトのプロトタイプを示すことができる時代です。インフラのコストが下がり、考えたことを形にすることが簡単にできるようになっています。そのため、そのようなスキルを身につけることは、決してマイナスではありません。全員にプログラミング教育の機会が与えられると、そこから何人かがのめり込んで、さらにそこからすごい子たちが生まれてくる可能性も高まると思います。

GoogleやFacebookのような新しい価値をつくることは、日本の国の競争力に直結すると思います。教育の現場ではもちろんそれが主目的ではないものの、本来、プログラミング的思考は全員が身につけるべきものだと思います。コンピュータにコマンドを打つ、ということがどういうことか知っていると、どんな分野に進んでも役に立ちます。介護でも教育でも政治でも音楽でも。自分の好きな領域に進んだときに、「ITを用いたら何ができるのかな?」という発想を抵抗なくできる人を100%にするということが、すべての人にとってのプログラミング教育の目標なのだと思います。

石戸

今の時代どんな分野にいこうとも、ITとは切っても切り離せない社会であるからこそ、基礎的な素養としてみんなが身につけつつ、その先には日本をしょって立つような人材も生まれてくるかもしれない。

南場

そうそう。

石戸

天才プログラマーも生まれるかもしれないですね。

南場

そうそう。その確率は相当に高まるわけですから。

オリジナルのブロックプログラミング言語

石戸

今回、オリジナルでプログラミング言語を開発されましたが、それはどうしてだったのでしょう?世の中にはScratchなど、すでにいろいろな環境が存在しますが、その狙いなどを教えていただけますか?

南場

私たちが開発したものも、Scratchからインスパイアを得ています。見た感じは似ていますが、もっと授業で使いやすくしたいなと思い、新たに開発しました。すぐにつくることのできるプログラマーがわが社にはいっぱいいるので、小学校低学年に教えるのであれば、こういうものがベストだよね、というものをつくりました。

石戸

授業で使うことを前提として組み立てたことが特徴なのですか?

南場

そうそう。

石戸

具体的には、どのあたりが授業に特化していらっしゃるのでしょうか?

南場

まずアプリを起動しやすいです。あともう一つは、先生用の機能が充実していることです。「これから大事なことを言うから、手を止めてね」って言ったときに、一斉に止めることができます。

日本の教室は先生が一人で何十人ものこどもを見ないといけません。そのことを考え、班で話し合いをしてほしいときや、先生の説明を聞いてほしいときには、ちょっとこども達の手は止まっていて欲しいですよね。あるいは、こどものやっていることを先生が見ることができると、より適切なアドバイスをすることができますね。個々人が、どこで止まっているのか、どこがわからなくなっているか、先生から見てわかるような機能があります。

開発したのは2014年だったのですが、そのときにはまだScratch Jrがなかったんですよ。なので低学年でもタブレットで動かせるという環境を自分たちでつくる必要がありました。

石戸

タブレットベースにしたことも特徴の1つだったわけですね。

南場

エンジニアの所感としてですが、Scratchはいきなりフルパッケージ(すべての機能がオープンで、なんでもできる状態から始まる、という意)なので小学校4年生ぐらいからでないと難しいのではないか、という意見がありました。だから、児童の学びの段階に合わせて使えるものが増えていく作りにしたかったのです。例えば「今日の授業でここまで教えたから、このブロックは使えるようになりました。次はもっとたくさん使えるようになります」という進め方です。

オリジナルプログラミング環境基本画面

石戸

カリキュラムが進むごとに、新たな機能が解除されて使えるようになっていくということですか?

南場

はい、カリキュラムがタブレットの中に入っていて、カリキュラム別に機能も変わります。

石戸

カリキュラムも含まれたアプリなんですね。

南場

そうです。「今日はこのボタンを押してね」というと、ブロックが制御された状態になります。教える人もその方が楽ですよね。今この環境は、ほかの学校にも提供しています。学校の先生が1人でできるようにしたいので、カリキュラムも含んだ形で提供しています。加えて、基本的な説明動画や先生用のテキストをつけて、先生がそのまま使えるくらいのものにしています。

石戸

授業パッケージができているのですね。

南場

そうそう。

石戸

もしこどもたちが全機能を使い、自由に製作したいと思ったら、それもできるんですよね?

南場

できます。ただ、いきなり自由にさせてしまうと、みんな好き放題やってしまい、途中で使い方がわからなくなり、やりたいことを形にできなくなりますよね。その結果「プログラミングはいやだ、わからないもの」となってしまうことを避けたかった。だから、最初はこれだけ、これができたら次はこれ、とだんだんと出来ることを増やしていくやり方にしました。

石戸

少し話はそれますが、学校に導入するのに適しているのはタブレットなのか?パソコンなのか?という議論もあります。予算的な制約もあり、タブレットの導入を目指す方向で進んでいたのですが、プログラミング教育が諸外国で盛り上がり始める中で、海外においてもタブレットからパソコン回帰の流れというのもあります。プログラミング教育を推進するにあたって、皆さんとしてはタブレットベースで進めていく予定ですか?

南場

デバイス自体は、どちらでもいいと思っています。だけど、いまは全員がスマートフォンやタブレットを使えるので、こどもたちにとって親和性の高いものから入ってやっています。

石戸

既にほとんどの家庭にスマホやタブレットはあるから、家でもできるようにしたいと考えたという面もありますか?

南場

そうですね。自分のスマートフォンやタブレットは持っていなくても、友達や家族のものに触れたことのあるこどもは大多数ですので、デバイスを操作することへの抵抗はほとんどないと思う。要するに、特定のデバイスや特定の言語っていうものに、あんまり縛られていない。

石戸

そうですよね、デバイスや言語はそれぞれが選択をすればいいわけなので。

南場

うん。親和性が高いものでいいかなと思っていますが、パソコンでもいいと思います。ただ、プログラミングスクールでは、キーボードがどれだけ使えるかで最初のクラスが分かれちゃうこととかがあって、それは本質的ではないと思います。授業の時間が8回という制約があったので、はじめからみんながすっと入って楽しめる環境を意識しました。

石戸

先ほど、先生方にも使いやすい機能をつけたというお話がありましたが、プログラミング教育を推進するにあたり、先生が対応できるかどうかということが課題の1つとしてよく挙がるのですが、実際やられてみて先生たちの反応はどうでしたか?

南場

最初はすごく悪いというか、もう何か目も合わせてくれない感じで・・校長先生も教育長も市長もノリノリだったのですが、そこに不安そうな担任の先生がいるという感じで・・。

はじめはそんな風に「プ、プログラミングって何ですか?!」みたいな感じだったんですけど、このアプリをつくったうちのエンジニア(DeNA取締役の川崎修平氏)が、学校に度々伺い、先生に丁寧に教えました。そのエンジニアとサポートスタッフが、担任の先生方とでタッグを組み、最初は非常に入念なスクリプトを作成しました。

石戸

スクリプトというと台本みたいなことですか?

南場

そうそう。台本をつくりながら、「いや、ここはちょっとそんな強い言葉は使わないでください」とか、先生方の持っているノウハウと合わせて議論しながら作成しました。例えば、「命令」や「コマンド」という言葉は1年生には使わせたくないという意見が先生方から挙がり、議論を重ねて「おねがいブロック」にしましょう、という感じで一つ一つ入念に決めていきました。みんながうるさくなってしまったときは、「静かにしてください」ではなくて、「これから大事なことを言います」と伝えましょう!などですね。我が社のエンジニアでは、全く知らない教育現場のノウハウがありました。

そういう風に、プログラミングのアプリを開発した本人と先生方とのコラボレーションによって授業のパターンをつくりました。台本をつくって、授業をやって・・を繰り返すうちに、やはりここをこう直したほうがよかったね、という反省会も行っています。そのように一緒に取り組む中で、プログラミングはそんなに難しいことではないのだ、ということを先生にもすぐわかっていただけました。さらに先生方自身も楽しんでいただけるようになっていきました。先生からの言葉で、「こどもたちが一生懸命取り組んでるのを見て、涙が出るほどすごくうれしかった」と。これはもう、ものすごく嬉しかったですよね。

石戸

私たちもそのような感想をよくいただきます。

南場

他にも、「普段、給食後は寝てしまうような子でも夢中になって取り組んでいた姿が印象的だった」といった声もありましたね。転勤になった先でも自分一人で実践されている先生もいます。だから、本当に全員ができることを確信しました。先生方ももちろん全員できるし、授業には教育委員会の人たちも毎回見学に来たのですが、そのうち教育委員会の方々も自らこどもたちに教え始めて。だから全員ができるものだと思います。

石戸

こどもたちの反応に先生が喜ばれたっていうお話がありましたが、それは普段の授業に比較して良かったということでしょうか?

南場

そうです。「こんなに情熱を持ってたのか!」ということに気づかされたという先生も多くおられました。8回の授業のうちの1回は発表会でした。優秀作品を選んだのですが、それで賞に漏れてしまったこどもたちが、もう何か悔しくって泣いてしまってたり・・。この子にこういう強いパッションがあったのだというようなことに気がついて、「すごく良かった」、「私たち(先生)としても発見だった」などの声をいただきましたね。こどもたちの反応が、また先生の感動に繋がった、という。

実際、こどもたち、本当にすごかったですよ。もう発表のときなんか張り切っちゃって、きちんと立派に作品のことを伝えられていました。

石戸

こどもたちが本来持ってるパッションを、そのままひき出すことができる授業となったんですね。

国語の時間にプログラミング

石戸

武雄の場合は放課後だったので、比較的自由に授業設計ができたと思うのですが、横浜では国語の授業の一環でしたよね。今後、公教育の中でプログラミングを導入するにあたり、教科との融合が大事になってきますが、どのように授業を設計されていったのでしょうか?

南場

教科との融合はしていった方がいいと思うのですが、そのためにもまず、最初にプログラミングの基礎はあった方がいいのかなと思います。武雄でやったような、基礎の部分を学び作品作りを自由に行うというパターンを半年から1年くらいやったあとに、教科で融合させるといいのかなと思います。今の日本の教育の内容が、まだ一つの答えを導き出すことに重きが置かれている気がするから、そのためにプログラミングが使われてしまうとすごく残念。そのため、やっぱり武雄的なものもやりたいですよね。

石戸

授業設計の上で難しいなと思うのが、短い時間で使いやすいカリキュラムにしようとすればするほど、ドリル的なものになってしまう。そのあたりの兼ね合いは難しいですよね。

南場

うん。ドリル的な学習がメインにならないようした方がいいなと思います。まず、ある機能を覚えてもらうために、その機能だけが入っている世界観があって、そこでそれを使って自由に何かをやる。その次に、また何か新しい機能が加えられている世界観に入っていく・・という流れをつくったら、復習として学んでもらう、あるいはこちらが習熟度をチェックしたいというシーン以外には、ドリルらしいドリルは必要ありませんでした。

授業は、まず「驚き」から入るということも重視しました。最初に、いくつかのブロックを組み合わせるだけで、自動的にキャラクターなどが動きます。それだけで、こどもたちはとても驚きます。

石戸

まず、感動があったってことですよね。

南場

そうそう。

石戸

そのあと、こどもたちは継続してプログラミングを行っていますか?

南場

1年生からはじめて、その子たちが2年生になって、さらに3年生になって・・、その子たちがずっと続いていきます。同じ子たちが持ち上がりでそのまま先生と一緒にやっていきます。発表会の1ヶ月後に行われた6年生を送る会で、1年生は自分たちがつくったプログラムを改良して、6年生全員がバルーンにのって旅立つ、というプログラムを発表したりしていました。

石戸

はじめは御社のサポートがたくさんあったということですが、今はもうサポートははずれているのですか?

南場

2、3年生向けには今も支援を行っていますね。

1年生はもう一回やってマニュアルはできているので、私たちの手を離れています。2年生や3年生には初めて教えるので、先生と一緒に取り組んでいます。1つの学年を2年回すと、カリキュラムのブラッシュアップがかなり進むので、もう先生にお任せしています。

民間企業・団体の関わり方

石戸

私たちもいろいろな学校でプログラミング授業のサポートをしています。小学校での教科科目の中でプログラミングを導入する実践にも携わっています。すると「そうはいっても外部の団体がサポートしているからあの学校はできる」ということも言われます。今後、学校教育の中でプログラミングが導入されていくにあたり、民間としてのどのような役割が大切だと思われますか?

南場

オンラインでサポートできる環境が、もう少しストレスなくできればいいと思いますね。今だと「オンライン」と言っただけで、「いったいどんな環境を作らないといけないんだ!」と恐怖を感じる先生もいます。民間企業や団体が1つの現場に張りつくことは、全部は難しいよね。でも、実際は担任の先生だけでできるぐらい簡単なので、私は本当に、怖がらなければできるとは思いますよ。

石戸

私たちも、全部の学校には行けないので、いかにオンライン上で授業やワークショップのノウハウを共有できるかということに取り組んでいます。また、MicrosoftさんやSalesforce.orgさんと組んで、IT企業の社員の方々を学校に派遣する仕組みをつくるといったことにも取り組んでいます。

南場

それそれ、そうそう。シリコンバレーではお父さん、お母さんがボランティアで推進しています。シリコンバレーだと、お父さんやお母さんでも、プログラミングのスキルを持っている人がいっぱいいて、そういう方々が積極的に教育に参加しています。企業のCFOクラスの人がミーティングよりもこどもの学校のボランティアを優先しておこなっています。

石戸

あと、企業と学校の連携以外に、武雄市の事例では、東洋大学と組まれて、検証をされていたのも良い取組だなと感じました。プログラミング教育が今若干危ういのは、確かな「データ」が少ないところかなと思って。きちんと検証してデータは取っておいたほうがいいですよね。

南場

今は学校での義務教育にこだわっているのですが、もう1つの面白い取り組みとして、横浜スタジアムで「キッズスタジアム」というこども向けイベントを行っています。小学生を対象にプロ野球のお仕事が体験できるイベントで、そのときにちょっとしたプログラミング教育に取り組んでみました。その日のピッチャーが石田選手だったので、石田選手を応援するようなアニメをつくって、大型ビジョンで流しました。

石戸

それは嬉しいですね。私たちも、ワークショップをやる際に、社会との接点はできるだけ作りたいなと思っていて。みんなに見られるとそれだけモチベーションになりますよね。

南場

イベントだったので、本当に数時間かしか教えてないにもかかわらず、こどもたちはすごいね。

石戸

確かにこういう発表できるメディアとか場を提供することで、体験の出口を提供してあげるとこどもたちのやる気が上がるのでとてもいいですね。

南場

そうそう。親御さんも喜んでました。

石戸

まだ御社としては事業としてプログラミング教育は行っていないという話でしたけど、今後も社会貢献事業として行うということですか?

南場

そうですね、社会貢献事業として行っています。我が社の規模になると、大きい可能性がないと事業としては難しいので、まだそこまでは全然いっていないです。

石戸

今後の可能性としてはあると思いますか。

南場

収益が大きく上がるような仕組みができれば、民間の事業として企業がこぞって入っていくことができて、公教育へも協力しやすくなると思います。だからこそ、教育とか医療などの社会善を、勢いをもって、うねりとして進めるために営利主義をうまく活用するべき、きちんと利益が出るメカニズムにするべきだ、というのが私の考えです。そういう意味でまだこの分野は規模が追いついていないのかなと思います。

石戸

それは今後も難しいという判断ですか?

南場

まず、私たちがこだわる義務教育現場においては、非常に予算的に厳しいですよね。石戸さんも一番苦労してるところだと思うのだけれども、予算的に厳しくて、利益をいただくところまではなかなかいかないですよね。

だけど、スクールや塾のようなものであればもちろん収益は出るので、ベンチャーなどもう少し小さい規模の会社だったら、十分に意味のある収益が上がるような仕組みはできると思います。

石戸

オリジナルのプログラミングのアプリは、今後公開予定でしょうか?

南場

頼まれれば、今でもみんなにあげていますよ。アプリそのものを丸々お渡しする方法ではなく、説明付きでお渡ししています。この前も、ある自治体の先生と教育委員会の皆さんがいらっしゃって、研修会を行わせていただいた上で、今後授業を実施することになったら提供する、というお話をしました。体験する前にお渡ししてしまうと、こんなの教えられない!などと大人のほうがプログラミングに対してアレルギー反応を示します。そのため、今は説明や研修とセットでアプリをお渡ししています。義務教育には無償で提供していますが、活動費の問題もあるので、企業や学習塾さんの場合は有償での提供です。ある塾では、このアプリを使ってオリジナルの授業をされています。今後はDeNA直営の塾なんかもやってみたいと考えています。

すべての人にとって必要なプログラミング的素養とは

石戸

どの分野に進んでも、これからプログラミング的素養が必要っていうお話をされていましたが、経営者にとっても、これからやっぱりプログラミングは必要と思われますか?

南場

そうですね。例えば、経営者としてすごいプログラミングスキルを習得している必要はないと思います。ただ、エンジニアとコミュニケーションができないとだめですね。いまは、エンジニアがユーザーへの価値の大部分をつくっているので、そのエンジニアを評価できなければいけないし、そのエンジニアを引っ張っていかなくてはいけない。だから、これからのDeNAのトップはプログラミング的な素養、プログラミング経験があったほうがいいと思っています。プログラミング的素養があること、AIやITに対する理解が深いこと、これが必須になると思いますね。

石戸

エンジニアが実現しようとしていることはなにか、を理解できるレベルのプログラミング的素養を持っておくべきということですね。

南場

それは絶対ないといけない。エンジニアがかなりの付加価値をつくっている中で、リーダーがそれを束ねていかなければいけないわけですからね。

石戸

野球もやられてますけど、例えば野球選手とかスポーツ選手のためのIT活用もされていますか?

南場

もちろん。選手たちは、自分のフォームや相手のフォームを画像でよく見ます。そこで、学習効果をあげるために、自分で画像を加工することができる、メッセージやコメントを加えることができる、といったスキルがあることで変わってきます。

石戸

野球選手やサッカー選手になりたいこどもたちもいっぱいいますけれども、スポーツの分野に進んだとしてもITを理解していると、より上達ができる?

南場

もちろんそうですね。今、ランニングクラブ(の育成組織)のこどもたちにもプログラミングを教えようか、という話も出ていますが、スポーツはデータだと思います。データを収集し、それを分析して、理解をして、自分に生かしていくという流れがとても大事。

石戸

今の保護者にとって、今ある職業がなくなっていくという話はときに恐怖心を持って語られていると思うのですが、始めのお話の3つの力を育まれることで、これからもこどもたちはどういうふうに成長していくのでしょうか?

南場

ロボットでも簡単に代替できるような仕事は無くなり、その分人間性が問われる仕事に付加価値が集中してくると思います。そういったところを身につけるために、上記の3つの力はとても重要です。基本的にコンピュータに使われるか・コンピュータと競争するか・コンピュータにコマンドを出すかという分類があるとして、その3番目のタイプ、コマンドを出せる人間かどうかが、今後の社会における活動の範囲を広げます。そうでないと、単純作業でコンピュータと競争しないといけなくなる。まず「コマンドを与えることができる」というのは必須スキルとして持っていてほしい。

今まで解いたことのある、問題や答えが1つしかない問題は、ほぼAIやコンピュータによって解決されてしまいます。逆に人類は、それが今まで解いたことのない、全く新しい課題に挑戦することができる。そういうところに集中出来る、よき時代がくると思っているので、そこで活躍できる人材を考えたいですね。

それに、どういう業界にいようと必ずITは必要です。そういうツールを、完全にブラックボックスとして捉えている人と、そのメカニズムについて理解できている人では、活躍の仕方がまったく違ってくると思います。ITを駆使しながら、多様なバックグラウンドを持つ人たちを束ね、うねりを作っていく。各々の感情を共有しながら、ゴールに向けて人を引っ張っていける。これからを生きる方々の活動の幅を決めるのは、そういう、大きな人間性の問われるような仕事に集中していけるかどうかだと思います。

石戸

プログラミングというと、ともするとちょっと無機質なイメージを持たれる方も多いですけど、むしろ人間力が育まれるということですね。保護者の皆さんは、こどもたちの今後の進路について大変悩んでいる方も多いです。南場さんはコンサル出身、海外でMBAも取られて起業。そのキャリアに憧れている方も多いと思うのですが、今後、保護者やこどもたちに向けて、どうアドバイスされますか?

南場

いや、私ね、今どきビジネススクールにいってMBAを取る必要性が、全くわかんなくなっていて(笑)。

石戸

その経験は生かされていないんですか?

南場

全然生かされてないですね。座学と実践があまりに違いすぎて。だから、ビジネススクールに入るぐらいだったら、プログラミングを勉強させたほうが圧倒的にその人の人生が彩り豊かになると思います。

石戸

ビジネススクールが役に立たないと思われる理由ってどんなものでしょうか?

南場

ビジネススクールも変わっているので、私の時代を前提に考えてはいけないと思うのですが、少なくとも私の時代は基本的に座学で、エクササイズのようなことをしていました。教えていることは常識的なことばかりだし、基本的にシミュレーションでしかないんですよね。

石戸

実践を積んで、感覚を養っていく方が大事だ、と。

南場

学校でちょろちょろと座学で学んでいる暇があったら、自分で1個でも事業を立ち上げてみる方がいいと思います。お客様から300円でもいただくことがいかに大事であり難しいか、ということをよっぽど良く学べると思います。座学で方法論を学ぶより、圧倒的にいいと思いますよ。

石戸

ユーザーから直接フィードバックが得られる環境は、今までの学びでなかったと思いますが、先ほどの横浜スタジアムでのイベントの話は、そのように他者からどう見られるのかについて考えるためにも、とても良さそうですよね。それこそ、こどもたちのパッション醸成、という点でも効果がありそうです。

南場

それから、こどもや、親は恐怖心を持ったほうがいいのかもしれないなとも思います。今どきITのことなんてわからない大人に育ったら大変ですよ。将来ITのことがわからないと食べていけないぞ!と恐怖心をもって、いろいろと体験させてあげられるならそれに越したことはないと思います。

石戸

なかなか変化しにくい教育の分野ですが、その壁を突破するときに、時に恐怖心をあおるのも効果的ということですかね。

南場

IT系の周辺の方々は、こどもにプログラミングを習わせている場合が多い。「今日はコンピュータの学校行ってくる」って、幼稚園生や1年生くらいのこどもたちが喜んで通っています。でも、そういう状況を全く知らない保護者の方々もいるわけじゃないですか。その人たちをどうやって動かすのか、というと、なるべくかみ砕いて説得して納得してもらうというやり方もあるし、とりあえず恐怖でやらせるというのもありますよね。もう食っていけなくなるんだと。コンピュータの奴隷になるぞと。

石戸

(笑)

とはいえ、プログラミングを学べる場がない地域がありますし、必ずしも通わせられる家庭ばかりではないですから、家庭格差が教育格差にならないようにはしていかなければいけない。そのためには、学校の中で、先生方に怖がらずにとりあえず試してみようと考えてもらえるのも大事かと思いますけれど。

南場

担任の先生に恐怖心を持たれないことがまず大事ですよね。担任の先生は1回や2回やれば絶対に恐怖心は取り除かれるので、正しく知ってほしいですよね。でも、まだ半分以上、恐怖心によりこどもを高学歴にしようと一生懸命塾に通わせている親もいるわけじゃないですか。ただ私たちは、高いレベルの大学を卒業した超エリートよりも、例えば、中卒だけれども、オープンソースコミュニティで大きなプロジェクトを成し遂げて注目されてる人のほうを採用しますけどね。

そういう考え方を、企業としても示していかなければいけないし、保護者も、こどもたちを食いっぱぐれさせたくなかったら、今の基準で考えてはいけないと思います。初等教育から義務教育の現場でやることにより、ある程度の平等性を保った上で、もし習い事に通わせられる余裕があるのだったらピアノとバイオリンと学習塾よりも、ピアノとバイオリンとプログラミングを習わせた方がいいと思っています。

石戸

さきほどの採用基準のようなものをお話してくださる経営者が増えると、また保護者の意識も変わってくるのかもしれないですね。

南場

本当にそうなんですよ。例えば、新卒採用を行うと、高学歴と言われるような学生の子たちが、何万人と受けにくるわけですね。面接では上手に話すのだけれども、面接の最後に「何か質問ありませんか?」と聞くと、必ず「どういう質問するのが正解かな?」と考えてしまっている。面接官に受けがいい質問を探す。でも、自分が心底知りたいことを聞く人が少なすぎると思います。

石戸

プログラミング教育が日本中に行き渡った暁にどんな日本社会になるといいなと願っていますか?

南場

小学校1年生からプログラミングに親しむようになると、日本の国力は20年たつと相当なものになっていると思います。日本の産業競争力は恐らく世界でトップになるのではないかと思うのです。自動車でも味噌でも楽器でも、あるいは飲食店の経営でも、デジタル技術を取り入れてどんどん進化しています。どんどん新しい発想のサービスが生まれていきます。

みんながプログラミングという言語、コミュニケーション方法を習得していると、日本以外の人たちとのコミュニケーションをはじめていくことができます。すると必要にかられて英語も学びはじめます。テストのための英語ではなく、コミュニティのルールを理解し、積極的に発言するための英語です。
そういう、国境を越えた思考が当たり前の人材を育てていきたいと思っています。例えば、ある街の課題も、食料問題も、自然保護の問題も、どのような問題の解決にも、日本の英知だけではなく、世界中の英知を集めて解決策を形にしていく時代になっていくと思います。ローカルな問題もグローバルな問題も、国にかかわらずそのとき一番やる気があって能力のある人が集まり、解決に向けて動いていく。そういう本当の意味でグローバルな社会は、とても豊かだよね。

石戸

世界共通の言語であるプログラミングを通じて、早期から情報化社会、国際化社会に慣れ親しむことで国力も上がるし、個人もより豊かな人生を送ることができますね。

南場

そう思ってるからやってるんだよね。石戸さんの話していることや書いていることも読んでるけれども、考え方が同じだよね。例えば、プログラミング教育とは関係ないのだけど、ソーシャルゲームをやらないこどもたちと、ソーシャルゲームをやりまくっているこどもたちを分けて、リアルの世界でグループワークをさせると、ソーシャルゲームをやりまくっているこどもたちはすごくグループワークがうまいというデータがあるという研究を読んだことがあります。私のピアノの先生は、ゲームがきっかけで音楽にのめり込んだらしいんですよね。

石戸

音楽表現はデジタルによりはじめやすくなりましたよね。もともとは、演奏するためにはたくさんの練習が必要で、作曲は一部のプロしかできなかった。でもデジタルツールを使うことによって演奏も作曲もはじめやすくなった。コンピュータを理解することで、表現手段を手に入れることができますね。

南場

そうなんですよ。いい時代になりましたよ。でも一方で、技術の裏側にあるものが、ものすごい勢いでブラックボックスになっていくと思います。

石戸

既に結構ブラックボックス化が進んでいますよね。プログラミングは、そういうブラックボックスを開いてあげましょうっていう話で。

南場

そういうことなんですよ。私はそう思っています。例えば、コンピュータが介護をする時代になったときに、「本当にこの介護ロボットはおばあちゃんの首を絞めないのか?」という判断ができるかできないかって結構シビアな問題にもなってくると思います。

石戸

生活をしていく上での判断力に影響していきますね。

南場

そう、これからロボットも様々な日常の場面にはいってくると思うので、制御などの基本的な仕組みをきちんと理解していないといけなくなると思います。

石戸

ロボットはじめテクノロジーを使いこなし、人間力を磨いていく、そんなプログラミング教育をこれからも推進していけるといいですね。

南場

そう思います。最後は、人間性!これからも、頑張ってね。